【2006年4月25日衆院法務委員会審議より】

2006年4月25日の法務委員会では、与党のみで共謀罪法案の審議を強行しました。
質問者は柴山昌彦議員(自民)、伊藤渉議員(公明)。
答弁をしたのは、杉浦法務大臣、大林刑事局長などのほか、柴山議員に対しては早川忠孝議員(自民)、伊藤議員に対しては漆原良夫議員(公明)でした。


■修正その1
「(その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体に係るものに限る。)」については、

「共同の目的」とは「結合体の構成員の継続的な結合関係の基礎となっている目的」であるという解釈をもとに、延々とループを繰り返す説明が行われています(ここの部分のみ、発言をそのまま収録しました)。

この解釈は、提案者が独自に解釈したもので、修正案にも法案にもこのような定義はありません

昨年10月14日に柴山議員が質問した、OL二人による万引きクラブの事例がほんとうにあてはまらないのかどうか、修正案の条文からでは明確にわかりません。

昨年7月に早川議員は「本当にだれでも同じ解釈にたどり着くようなそういう法文になっているか」という疑問を投げかけましたが、この修正案は自らの疑問を払拭するものとはなっていません


■修正その2
「その共謀をした者のいずれかによりその共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において」については、 具体例として、共謀がなされたあとに、凶器を購入するために銀行口座から金を引き出す行為、犯行現場に下見に赴くためにレンタカーを借りる行為などがあげられています。

共謀の嫌疑さえあれば、実行に資する行為があるかないかにかかわらず、捜査、逮捕することができるということ、共謀者のひとりによって実行に資する行為がなされたことを他の共謀者が認識する必要はないことが確認されています。
これでは、この要件を付け加えても、恣意的な捜査を防ぐ効果はほとんどないと考えられます。


【審議より】(●は質問者、○は答弁者)

■修正その1
「(その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体に係るものに限る。)」に関するやりとり

○早川忠孝議員(自民)
「団体」とは、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるものをいう」と定義されている。
「共同の目的」とは、「結合体の構成員の継続的な結合関係の基礎となっている目的」と一般に解される。
これらの罪」とは、「死刑または無期または長期4年以上の重大な犯罪」を指す。
別表第一」 とは、改正後の組織犯罪処罰法別表第一のこと。
構成員の継続的な結合関係の基礎となっている目的が、上記の罪のいずれかであることを要するということ。

●柴山昌彦議員(自民)
構成員を結びつけている目的が正当な目的である団体についてはその性格が変わらない限り、処罰できないということでしょうか。

○早川議員
委員ご指摘のとおりであります。
修正案は、共謀罪における「団体の活動として」、という要件にいう「団体」について、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することであるような団体である場合に限って共謀罪が成立することとするものであります。
共同の目的とは、構成員の継続的な結合関係の基礎となっている目的、すなわちまさにそのために構成員が継続して結合しているという構成員の継続的な結合関係を基礎付けている、その根本となる目的でなければならないと考えます。
したがってご指摘のような目的で活動をしている団体の場合であれば、仮にある特定の時期にある特定の犯罪にあたる活動をしたとしても、そのことだけでただちにその共同の目的が重大な犯罪等を実行することにあると認められるわけではなく、構成員の継続的な結合関係がまったく一変してまさにそのために構成員が継続して結合しているという、構成員の継続した結合関係を基礎付けているその根本となる目的が重大な犯罪等を実行することにあると認められないかぎり、なかなか解釈がやっかいでありますけれども、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体にはあたらないと思います。

●柴山議員
ま、簡潔にお願いしたいと思いますが。
ということであれば、去年10月14日に私が質問させていただいた、たとえばOLが万引きを目的としてかたちで集まった場合は、原則としてあたらないことが明確になったという理解でいいでしょうか。

○早川議員
まったくご指摘のとおりであります。
なお、政府原案におきましても、そもそも、団体の定義にあたらない場合、団体の活動する要件にあたらない場合、犯罪行為を実行する組織にあたらない場合などが考えられるわけでございます。
今回の修正案で団体を限定したことによって、えー・・・まさにそのために構成員が継続して結合しているという、先ほどご説明申し上げました構成員の継続的な結合関係を基礎付けている、その根本となる目的が重大な犯罪等を実行することにあると認められる団体でない限りは、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体にはあたらないのであります。
今回の修正案にありまして、共謀罪が成立するのは、お尋ねの事例に即して言えば、組織的な窃盗団のような犯罪組織の活動として行われる場合に限られることになるのでありまして、ご指摘のような事例については、原則として共謀罪の対象とならないことがより明確になるものと考えております。


●伊藤渉議員(公明)
重大な犯罪を犯すと意思決定した場合、その団体は重大な犯罪等を実行することを目的とする団体となってしまうのでないかという批判があるが?

○漆原良夫議員(公明)
共同の目的が重大な犯罪を実行することにある団体というのは、まさにそのために構成員が継続して結合しているという、構成員の継続的な結合の基礎が重大な犯罪を実行することにある団体。
重大な犯罪を犯すと意思決定したとしても、そのことだけでただちに「共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体」にあたるわけではない

●伊藤議員
正当な目的で活動をしていた団体が、その後、重大な犯罪を実行する目的で活動するようになった場合は

○漆原議員
団体の共同の目的がなんであったかの判断については、いま現在、個別具体的な事実関係のもとで、その団体の共同の目的が重大な犯罪の実行にあるかどうか、によって判断。
重大な犯罪を実行することが構成員の継続的な結合の基礎にあるといまだ認められない段階では、そう認定されない。



■修正その2
「その共謀をした者のいずれかによりその共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において」
に関するやりとり

○早川忠孝議員(自民)
成立要件3点
1.共謀が成立した後であること
2.共謀する行為とは別の行為であること
3.共謀に係る犯罪の実行に役立つ行為であること

●柴山昌彦議員(自民)
「実行に役立つ行為」というのはどのような行為か。
具体的な事例を。

○早川議員
ある場所で凶器を用いて殺人を実行する共謀が行われた場合において、犯行現場の下見凶器を購入する行為。共謀がなされたあとに、下見をするために犯行現場に赴く行為、凶器を購入するために銀行口座から金を引き出す行為、下見のために犯行現場に赴くためにレンタカーを借りる行為など。

●柴山議員
レンタカーを借りた行為が実は家族と行楽に行くために借りるという場合もありうるわけで・・・どうやって実行に資する行為だということを証明していくのか、証明できなかった場合はどうするのか。

○大林刑事局長
被疑者の供述関係者の供述物的証拠などによる。レンタカーを借りた行為がかりに家族と行楽にいくためのものであり、かりに実証できない場合は、検察官は起訴をしないということになると考えられる。

●柴山議員
犯罪として処罰されるのは、共謀なのか、実行に資する行為なのか。

○早川議員
「実行に資する行為」は、外部的な行為が行われた場合にかぎって処罰の対象とする、という、共謀罪として処罰するための処罰条件。犯罪として処罰されるのは共謀自体。

●柴山議員
ということは、処罰はできないにせよ、共謀の嫌疑さえあれば、実行に資する行為があるかないかにかかわらず、捜査、逮捕することができるということか。

○大林刑事局長
共謀が行われたという嫌疑があれば、捜査を行うことは可能


●伊藤渉議員(公明)
他の共謀者が実行に資する行為がなされたことを認識することは必要かどうか

○漆原良夫議員(公明)
他の共謀者が実行に資する行為がなされたことを認識することはいらないと考える。

●伊藤議員
A,Bが共謀して実行に資する行為が行われた後、あらたにCが加わった場合、さらに加わったあと、実行に資する行為が行われなかった場合、Cは処罰されないのか

○漆原議員
このような共謀は、すでに処罰される段階にいたったもの。その段階にいたったときにCが加わったので、Cは処罰される。 ただし、Cが加わったことで、共謀に関する内容が変わり、新たな共謀が行われたと判断される場合は、あらたな実行に資する行為が必要。