2006年5月21日

自民党が2006年5月16日に以下のようなコメントを出しています。

「犯罪の国際化、組織化、高度情報化に対処する刑法等改正案(条約刑法−いわゆる共謀罪)について」
http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2006/seisaku-008.html


この中に、当サイト上の事例集への反論と思われる文面が記載されておりますので、
それについてコメントいたします。


【自民党の反論】

【具体例で共謀罪が成立すると指摘するもの】
「CDをコピーして友人に売る相談」・「一気飲みさせようと相談」・「自転車を盗んでやろうと相談」
・「どぶろく製造を計画」・「マンション建設に反対する住民団体が、
工事中止のため座り込みの相談をする」という事例で共謀罪が適用される。


いずれについても、与党修正案にいう「団体」の要件である
「共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体」などの要件を満たさず、共謀罪は成立しない。


【コメント】

私たちは、条文を読み答弁を聞く限り、自民党のこの説明を
そのまま受け入れるのはむずかしいと考えます。

与党議員自身が述べているように、法律はいったんできてしまえば、
ひとり歩きしてしまいます。
ですから条文には判断基準や限定を、誰が読んでも間違いなく読み取れるように、
はっきりと書く必要があります。

( http://kyobo.syuriken.jp/paper2.htm )

では、与党修正案のように団体の要件を「共同の目的が重大な犯罪等(注)を
実行することにある団体」とすれば、
このサイトであげた事例は該当しないといえるのでしょうか。

ある団体の共同の目的がなんであるかは、
当初の目的や定款になにが書かれているかではなく、
「今現在、その団体の共同の目的が重大な犯罪等の
実行にあるかどうか、によって判断する」と、政府も与党議員も答弁しています。

「今現在」がくせものです。

つまり、共謀が行われたまさにその時点で、
「共同の目的」が「重大な犯罪等」の実行にある
「団体」かどうかが判断されることになります。

したがって、与党修正案によっても、たとえば「CDをコピーして友人に売ろう」
という合意ができた時点で、
著作権侵害(懲役5年以下)を共同の目的のひとつとする団体が成立していると
解釈されるおそれは消えません。

12日に与党が示した再修正案では、「組織的な犯罪集団」という言葉が入り、
修正案より一歩進んだかに見えますが、
よく読んでみると「組織的な犯罪集団」の定義は
「共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体」となっており、
指し示すものは修正案と変わっていないことがわかります。

さらに、19日に与党が示した再々修正案では、共謀罪の対象となる罪を
「最高刑が5年以上の禁錮・懲役である罪」としたとされています。

しかし、この修正によって対象からはずれる犯罪はわずかです。
事例集のなかで、与党再々修正案によって明らかに該当しなくなるのは、
公職選挙法違反にあたる3例のみ(最高刑が4年以下のため)です。


なお、与党修正案には「労働組合その他の団体の正当な活動を
制限するようなことがあってはならない。」とありますが、
誰がどのような基準で「正当な活動」と判断するのか、示されていないため、
これでは恣意的な捜査を防ぐことはできません。

(注)「重大な犯罪等」=
与党修正案では「最高刑が4年以上の禁錮・懲役である罪」と「別表第一に挙げられた罪」


<<ご参考>>

与党再修正案


(組織的な犯罪の共謀)

第6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、【組織的な犯罪集団の活動(組
織的な犯罪集団(団体のうち、その共同の目的がこれらの罪又は別表第一(第一
号を除く。)に掲げる罪を実行することにある団体をいう。)の意思決定に基づ
く行為であって、その効果又はこれによる利益が当該組織的な犯罪集団に帰属す
るものをいう。)】
として、当該行為を実行するための組織により行われるもの
の遂行を共謀した者は、【その共謀をした者のいずれかによりその共謀に係る犯
罪の実行に必要な準備その他の行為が行われた場合】
において、当該各号に定め
る刑に処する。ただし、【死刑又は無期若しくは長期五年以上の懲役若しくは禁
錮の刑が定められている罪に係るものについては、】
実行に着手する前に自首し
た者は、その刑を減刑し、又は免除する。
 一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められ
ている罪 五年以下の懲役又は禁錮
 二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下
の懲役又は禁錮
2 (略)
3 【前二項の規定の適用に当たっては、思想及び良心の自由並びに結社の自由
その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限するようなことが
あってはならず、かつ、労働組合その他の団体の正当な活動を制限するようなこ
とがあってはならない。】