J−WAVE 共謀罪対談 (2006年4月6日)

(以下は番組の許可を得て音声メディアから書き起こしたもの。ご厚意に心より感謝申し上げます)

※PDFファイルはこちらからダウンロードください。

内田: J-WAVE JAM THE WORLD。東京六本木ヒルズから内田誠が生放送でお送りしています。続いては、「15ミニッツ」のコーナーです。国会は先月末に予算が可決成立。これから重要法案の審議に焦点が移っていきます。そんな中、にわかに注目を集めている法案があります。それは共謀罪。「共にはかりごとをする罪」と書くんですが、その共謀罪に関する法案です。今までに2度廃案になっているのですが、この法案がもし可決成立すると、じつは私たちの暮らしにさまざまな影響が出るとも言われています。リポーターは平尾美穂さんです。

平尾: あらためましてこんばんは、平尾美穂です。よろしくお願いします。この共謀罪なんですが、実際には何もしなくても団体が犯罪の相談をしただけで罪に問われるというものをいうそうです。それを処罰するための法案ということなので、これだけ聞くとテロリストたちの犯罪や振り込め詐欺グループの悪事を未然に防ぐためのいい法律のように感じるんですが、内田さん、どうもそうではないようですよね。

内田: 暴力団を念頭においたり、いわゆる組織的な犯罪ということになると、そうでもしなければ取り締まれないんだろうという大方の意見があるでしょうから、そこに依拠して法律の改正をしようということなんだと思いますが、それが及ぼす結果はかなリ重大なことだと思うんですね。

平尾: いったい共謀罪が成立すると、私たちの身にどんなことがおきるのでしょうか。そこで今夜は、共謀罪に反対のお立場から、その内容をクイズやマンガ等で伝える活動を続けている市民グループ「りぼんプロジェクト・リミックス」のメンバー、一橋大学教員の今村和宏さんをスタジオにお迎えして、わかりやすく説明していただこうと思います。よろしくお願いいたします、今村さん。

今村: 今村です、よろしくお願いします。

平尾: まずは、今村さんたちが共謀罪の法案に反対する理由からおうかがいできますでしょうか。

今村: この法案は、一般にはまったく知られていないようなんですけれど、じつは以外に身近なものであるということです。それから、その内容が、条文から見る限り非常にあいまいで、何に適用されるのか普通の人ではまったく予想がつかない。とにかく疑問だらけの法案であるということで、私たちは反対しています。

平尾: 私自身も、身に降りかかるのかどうかということが想像もつかない感じなんですけど、実際に共謀罪法が成立しますと、どんなケースで罪に問われる可能性があるのでしょうか。これから3つの短い物語をお聞きいただきたいと思います。それぞれ共謀罪にあたるのかどうか、ラジオの前のみなさん、よく聞いて判断してみてください。内田さんも一緒に考えてみてくださいね。それではまいります。まず最初はこんなシーンから。

 ■ ラジオドラマ1「音楽仲間編」■

(静かなメロディーを作曲中、外から大音響のラジカセの音)

A「隣のおばさんのラジカセだ、うるせー」
B「またベランダで鳴らしてる。もうがまんできねー」
A「ラジカセ盗っちゃおうぜ」
B「よし、1階だから庭から入れば簡単さ」
A「見張りはおれがやるからさ」


平尾: いかがでしょう、内田さん。このケースは、共謀罪……

内田: 白熱の演技でしたけどね。これはいわゆる共謀罪じゃないですかね。とにかく犯罪をやろうとしていますよね。1つは住居侵入があるでしょうし、ラジカセ盗っちゃおうと言っているんで、窃盗ですよね。しかも2人でそれについての謀議をしていると、たぶんとられるのではないでしょうか。

平尾: 今村さん正解は?

今村: まったくそのとおりなんです。正解です。共謀罪はなりたってしまいます。

内田: よかった。あたってよかったと言うべきかどうかわかんないですけど。

今村: 政府は、このようなケースについてはまったく共謀罪は適用されないと始終説明をしているんです。ただし条文から見ると、その説明は納得がいかない。残念ながらあたってしまうということなんですね。窃盗は最高の刑で10年の懲役が課されていますけれど、そうすると共謀罪が適用されてしまう、ということなんです。しかもここでは役割分担までしっかりやっていますね。

内田: そうですね。

今村: そうなると、共謀罪の用件とされる団体ということもなりたってしまいますので、これは確実に適用されるということです。

平尾: かなり重い罪なんですね……。続いてこのケースはどうなのでしょうか、お聞きください。

■ ラジオドラマ2「会社編」■

男性社員「なんだよ、課長またかよ」
女性社員「もうほんと許せない。総務の子、みんな課長のセクハラの餌食になってんだから」
男性社員「そうだ、課長っていつも昼休みに会議室で昼寝してんじゃん。こんどその会議室に閉じ込めちゃおうぜ」
女性社員「賛成、やろうやろう」
(2時間後)
男性社員「さっきの話だけど、やっぱりやりすぎかな。ごめん、やっぱりやめよう」

平尾: こちらは1回たくらんだもののやめているという感じなんですけど、どうでしょう? 内田さん。

内田: そのままやっていれば監禁行為ですから、監禁罪になると思うんですよね。2時間後にやめてると言っているけれど、男性だけやめようと言っていて、女性は同意をしていないですよね。そうすると、少なくとも取り消しになっていないから、やっぱり共謀罪になるのかなと思うんですけど。

平尾: 今村さん正解をお願いします。

今村: かなりの分析、さすがと思うのですが、ここでは残念ながら女子社員が完全にやめようと、両方ともやめようと合意したとしてもダメなんです。一度共謀の合意があったら、そのあとに共謀罪は消えないというところがまた恐ろしいところです。

内田: あとからやめると言って、よしやめようと言ってもダメ。

平尾: 心を入れ替えてもダメということなんですね。

内田: 共謀をしたという事実だけをとらえて、犯罪としてしまうからですね。

今村: そうなんですね。被害がおこっていなくても、それはここでは関係ありません。

平尾: 相当悪い課長さんのような気がするんですけどね、話を聞いていると。

今村: 同情の余地はかなりあると思うんで、もし裁判になったら、刑期の長さで配慮される可能性はありますね。

内田: 情状で、ですね。

今村: 情状酌量という可能性はあるかもしれない。

平尾: 最後の問題です。このケースは共謀罪にあたるのでしょうか、あたらないのでしょうか。みなさんしっかり考えてください。

■ ラジオドラマ3「CD編」■

男子A「じゃあさ、明日までにこのCD10枚コピーしといてよ」
男子B「ほんと売れるの?」
男子A「大丈夫だって」
女子「ねえやめたら、それってなんか法律に引っかかるんじゃないの?」
男子A「なにそれ、10枚くらい大丈夫でしょ。じゃ、よろしくね」
男子B「OK!」


内田: あー、やっちゃっていますね、これ。

平尾: 反対している女子生徒もいますけど……

内田: コピーをして、10枚のCDを売ろうってことですから、法律としては、これ売っちゃえば著作権法に非常にきびしく違反していますね。しかも、それを相談しているということなんですが、女の子が「法律にひっかかるんじゃないの?」と疑問を呈しているところが、もしかしてミソですか?

今村: それはもちろんそうなんですね。ここは男性2人の場合は完全に共謀罪ですけども、女性の場合は、それにひっかかるかどうか微妙なところです。この人が、「私は絶対反対だったんだ」と、最後まで証明することができれば、逃れることができるわけですが、どうやって証明すればいいんでしょう? もしかしたら無言の合意をしていたのかもしれない。そこらへんがわからないところですね。

内田: 合意の世界や共謀の世界は、疑えばどこまでも疑うことができるということですね。捕まえる側から言えば。
今村: 最終的に立件、つまり罪を及ぼすことができないとしても、捜査だけは始まってしまうんですね。それが怖いところで、捜査が入ったときには、普通は社会的な信用が落ちるんじゃないでしょうか。

内田: そうですね、最近は微罪でも何十日も拘留されるということがいっぱいありますけど、それに類することがあったらほんとに大変なことになりますね。

今村: 大変なことになりますね。

平尾: うーん、さあみなさんどうでしたか? 今、3つのパターンを聞いていただきましたけど、全部どこがいけないのか、どこが共謀罪なのか、わかりましたでしょうか? いかに私たちにとって身近な問題なのかというのが、なんとなくおわかりいただけたと思います。しかしこの共謀罪なんですが、さらにいろんな問題を含んでいるようなんですね。それについては、1曲聞いていただいたあと、今村さんにくわしく教えていただきたいと思います。

 (曲)

平尾: 今夜は、国会で審議されている共謀罪について、市民グループ「りぼんプロジェクト・リミックス」のメンバー、今村和宏さんにわかりやすく教えていただいています。今村さん引き続きよろしくお願いします。私たちの生活にも大きく関わるこの共謀罪なんですが、もともとどういった目的で、どのような経緯で審議されることになったのでしょうか。

今村: かなり複雑な話なんですけど、国際的な組織的犯罪を防止するための国際条約ができまして、それに日本政府もいちおう調印していて、でも批准には至っていない。問題は、国際条約にはさまざまな限定条項があるんですけど、そういう限定をはずしたりゆるめたりして 法案は条約の枠を大きくはみ出しているということがあります。なぜか。そこらへんが問題ですね。それから、政府がどうしてこれをやろうとしているのか、そこらへんもかなり問題で、わからない部分だと思うのですけども、これは、いわゆる反対の人たちは、特に悪意だということですべてを割りきろうとしているんですが、私はそういうことだけではないと思うんです。ある意味では善意で解釈することも可能だと思うんですね。ただし、その善意がいきすぎているかもしれない。

では、善意とは何か。それはたぶん、不安とか恐れに対処しようという善意だと思うんです。最近、今までとは違った形でインターネットが利用されて、固定的な組織ではないものがプロジェクトベースで結びついて、それが犯罪を引き起こしているところがございますよね。取り締まる側にはわからない犯罪が増えているんじゃないか。国際的なものも増えています。となると、とにかく網を広くかけておきたいということで、なんにでも適用できる法律をまず作っておいて、あとで何に適用するかを決めたいと。そういうものじゃないでしょうかね。

内田: めんどくさい話ですけど、もともと刑法というのは一般の市民の自由を奪わないように、これとこれとこれは取り締まりますよと、取り締まりのいわばカタログとして出されたものであって、それ以外のところに自由があるということで、われわれは自由を獲得していたと思うんですけど、こうやってなんでも捕まえられるようなもので網をかけられたら、それこそ息が詰まってしまいますね。

今村: そういうことなんですよ。何に適用されるかわかりません。たぶん一般の市民がすぐにそれによって捕まえられることはないと思うんです。でも、いつそうなるかわからない。そのような状態は、やっぱり恐ろしいと思います。

平尾: 今回の国会中に成立させようとしているのが、なにか与党にねらいがあるのかなあという気がするんですが。

今村: やっぱり、アメリカがつい最近批准したことがあって、なるべく早くしてよと、またやっぱり外圧があるというのもあるかもしれませんね。

内田: 今、テロとの戦いということを前面に掲げればなんでも通るのと同じように、これも国際的なそういう犯罪を取り締まろうということで、世界的にそういう傾向があるということですね。これはほんとに不安なんですけれども。

今村: その不安が、ある部分利用されているところがあるのではないでしょうかね。いわゆる霊感商法ってありますよね。不安をあおっておいて、何か高いものを売りつける。それと同じで、最近とにかく報道を見る限り、ものすごく犯罪が増えているような印象をみんな受けてしまいますが、統計を見る限り、べつに増えてないんですね。ただし情報を警察がリークする率、頻度がどんどん増えている。それをそのまま報道しますから、とにかくものすごい不安があおられている。その不安を利用して、「これもあれもやったらどうですか?」と言われれば、みんな「やっぱりいいんじゃないだろうか」と、効くのか効かないのかわからずに、確認しないで受け入れてしまう。そういう風潮があるんじゃないでしょうか。

内田: うーん。具体的な点で、先ほどのドラマにもありましたけれども、2人で共謀が成立してしまうと。それが団体とみなされると。「団体」はそれでいいんでしょうか?

今村: わたしも普通の感覚では、それはぜったいわからないと思うんですね。ところが政府があちこちで、「いやそういうのは適用するつもりはありません」、つもりはないと言っていますが、国会議員の長妻議員という民主党の人が、国会閉会中に文書で質問主意書というのを出しました。それに対する答えということで政府が出した文書では、それはある、と言っているんです。2人でももちろん団体になる。友達どうしでも家族でもなんでも。それは否定しませんでした。はっきりそうなるとは言いませんでしたが、そういうものは除外しませんでした。

内田: うーん、やっぱりそこはフリーハンドで残しているんですよね。

平尾: ふうん……でも、共謀罪なんですけど、テロや凶悪犯罪を未然に防ぐという意味では、ありがたい面もあると思うんですが。

今村: それもだから先ほどの話につながるんですが、本当にそれに役立つ法律になっているかということを検証しなければならないんですね。なんとなく役立ちそうだからとにかく網を広げるっていうんじゃあ、やっぱりおかしいんじゃないんでしょうか。

平尾: たとえば共謀罪の悪用とか濫用とか……

今村: いや、悪用ではなくて、そのまま使ったらもう大変なことになりますよね。600以上の犯罪を合意しただけで共謀罪になってしまいますから。もちろん、捕まえることなんかできませんよ。何百万人も犯罪者になってしまいますから、それを捕まえることはできません。でもいつ捕まるかわからない。

内田: これね、共謀罪で立件といいますか、取り締まるという場面を考えたときに、なんとなく共謀罪じゃないの、というわけにはいかなくて、警察の側が特定の団体であるとか市民運動のグループだとかサークルだとかにスパイを派遣して証拠をつかむと。「確かにお前たち、これ合意したじゃないか」と、そういう捜査手法につながるってことはないですか?

今村: そのおそれはかなりあるんですね。政府は、基本的にはそういうことはしないと言ってるんですけど、条文の中にも、自首した場合にその人だけ罪が半分になったりあるいは免除されたりというところがありまして、それが密告をうながすんじゃないだろうかと懸念されています。

内田: うーん、なるほど。スパイじゃなくても密告ということがあるわけですね。

今村: そうですね。それから通信傍受、つまり盗聴については、すでにある通信傍受法を使うということを、政府は明言していますし、それから捜査状況を見たうえで、さらに新しい法律を作って、もっと使い勝手をよくするということも、先ほどの長妻議員の質問主意書にたいする政府答弁で言っています。

内田: ふうん……ちょっとこう、背筋が寒くなってくるんですけどね。

平尾: そうです……この共謀罪って、海外にはあるんですか?

今村 あります。先程申しましたけど、アメリカにはすでにありまして、でもきわめて限定的な重大な犯罪について適用されていますね。あとフランスでもドイツでもあるらしいです*。でも、適用される犯罪の数は少ないです。ここですごく大事なことがございまして、それらの国と日本はかなり状況が違うんですね。何が違うかと言うと、取り調べるやり方が違う。弁護士が立会うことができるんです。日本はできません。それに加えて、カメラでの記録が認められてるんですね」

注*この部分は誤りでした。フランスやドイツは「共謀罪」ではなく、組織的犯罪集団に参加したことを罰する「参加罪」があるだけです。

内田: 外国はだいたい全部ビデオで撮ってますよね。

今村: はい、ところが日本ではありません。だからまた恐ろしい面があるんじゃないでしょうか。

平尾: はあ〜……へえ〜……

内田: うーん……調書が作られてしまうと、それが裁判上、証拠となっていくと。しかしその取り調べの様子がぜんぜん公開されていない。反証のしようがないわけですよね。

今村: 警察のみなさんがみなさん、べつに悪意を持っているわけではないわけです。みんなが疑うのは、それはまた行き過ぎだという面がありますけど、でもそういうことがないように保証することが法律の役目だと思うんですね。

平尾: ふう〜ん……今村さんは、共謀罪の成立に反対する活動をしていらっしゃるわけなんですけど、反響はいかがでしょうか? そして、今後、成立をどうやって防ぐおつもりでしょうか?

今村: 反響は最初は非常に鈍いものでした。とにかく法律がわかりにくいんですね。でも、それがだんだんマンガやクイズを利用してなんとなくわかっていただけるようになってきた。その時点で急に変わってきましたね。最近では、テレビでは「サンデープロジェクト」でなんかやるという話がありますが、まだ大きく扱ってません。でも、ラジオではここで扱っていただきましたし、ほかでも地域のFMの局で40分ほど話したこともあります。そうやって、ラジオで広く扱われるようになると、テレビでも扱われるようになって、反響はどんどん広がるでしょうし、インターネットの世界ではもうかなり反響があります。

内田: うーん、なるほど。

平尾: うーん。残念ながら時間がもうきてしまったので、今村さんがなさっている活動をもっとくわしく知りたいという方いらっしゃると思います。番組のHPにリンクをはっておきますので、ぜひみなさん、そちらでご覧になってください。今村さん、きょうはほんとにありがとうございました。

今村: どうもありがとうございました。

内田: 今夜は市民グループ「りぼんプロジェクト・リミックス」のメンバー、一橋大学教員の今村和宏さんをスタジオにお迎えして、共謀罪について教えていただきました。ありがとうございました。以上、「15ミニッツ」のコーナーでした。