【2005年10月14日衆院法務委員会議事録より】
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000416320051014005.htm

 2005年10月14日、第163特別国会での法務委員会の審議では、多くの与党議員が共謀罪法案の問題点を指摘しています。
こうした発言を見ると、第164回国会で与党が提出した修正案は、新聞等が報道するように野党の批判に応えたものではなく、
与党議員による法案への批判のごく一部を反映したものにすぎないということがわかります。
(●は質問、○は答弁)


■柴山昌彦議員(自民)

●【身近な事案でも該当し得る】

(会社のOL二人が「万引きクラブ」を作るという事例を挙げて質問)比較的身近な事案についても構成要件上該当し得るということがかなり問題となってくる場面があるのではないか。


●【合意に至らなかったか、合意後撤回したかの認定があいまい]
 この共謀罪というのは、自首減免の規定はあるんですけれども、いわゆる中止の規定がないんですね。
 そうなると、実際に合意に至らなかったのか、それとも合意をしたけれどもそれは撤回したのかということが、この二年以下の懲役という極めて重要な犯罪の認定において微妙な部分になってくるということなんですね。そこがかなりあいまいではないかという問題意識があります。

●【オーバートアクトを入れよ】
 それを要件とした場合に、法益保護上、あるいはその他の何か不都合な事例というものが、あるでしょうか。
 というのは、オーバートアクトを要求しても、だれか一人が何らかの行為をすればいいわけです。
例えば先ほどの国際的なクレジットカードの偽造の場面でいっても、だれか一人が例えばプラスチックカードを購入して、それを準備するという行為が認められれば、オーバートアクトの要件を導入したとしても、これを処罰することは可能なんです。ただ、これを全く要件としなければ、合意をしたかどうかということも不明確、合意を撤回したかということも不明確です。だけれども、その外部的な徴憑ということ、これを要求すれば明確性というのは格段に広がるんじゃないかというように思うんですが、この点はいかがでしょうか。

(○答弁 共謀罪において、オーバートアクトを要件としない場合と、した場合の実務上の差異は、
結果としてはそれほど大きくない場合もあり得る、このように考えております。)


●【オーバートアクトに独自の解釈を。例えば予備行為】
 オーバートアクトが明確でないという批判があるんですけれども、これは、この条約の解釈として私たちが独自に決められると思うんですね。例えば予備行為とか幇助、まあ幇助までいくと書き込み過ぎかと思うんですが、例えば予備行為というような、あるいは予備とは何かということをちょっと定義づけたり、そういうことを入れればいいわけですから、それによって特段の不都合が生じる、それは、先ほどおっしゃった共謀の段階で一人が自首した場合という場合に確かに差異が出てくるかもしれませんが、これを入れることによって特段のデメリットがあるとは私は思えません。

●【サイバー犯罪条約:くれぐれも慎重な検討を】

 (答弁:G7諸国はいまだこの条約を締結していないと承知しております。)

 要は、署名した各国でそういう手続が進んでいる中で、日本の法整備というものが突出して進んでいるのではないか。
 当然のことながら、サイバー犯罪ということになりますと、やはり処罰の範囲の限定ということが恐らく重要な要素になってくると思うんですね。だから、そのあたりはやはりくれぐれも慎重な検討をしなくてはいけないのではないかということを付言したいと思います。

●【差し押さえ対象範囲の線引きが明確でない】
 要するに、コンピューターの端末から勝手にプロバイダーから情報を得て、それを犯罪に利用している場合に、それを意外とする当該プロバイダー、このデータというものはどうなんでしょうか。要するに、勝手に端末でデータを写している場合でも、そのもとのプロバイダーが、処理すべき電磁的記録を保管していると認定できるかどうか、その線引きはどうなんでしょうか。

 (○答弁 略)

 質問に答えていただいていないんですが、要は、勝手にデータをダウンロードしてそれを使っているだけでその親のプロバイダーが差し押さえられるかどうかであって、その差し押さえの手続的な要件を聞いているわけじゃないんですね。
 要するに、当該端末のコンピューターで勝手にデータを引っ張ってきてもよいと言ったら、どんなプロバイダーも全部差し押さえの対象となりかねないわけですね、その令状さえ、特定さえしていれば。今特定性の要件をおっしゃったんですけれども。
 だから、当該パソコンとの実質的な結びつき、何らかの結びつきがなければ、プロバイダーを運営している人もたまったものじゃないですよ。勝手に犯罪をやったら、どんどん差し押さえられてしまう、そういうことにはならないんですか。


■稲田朋美議員

●【オーバートアクト・組織性の構成要件を明確に】
 修正するとすれば、オーバートアクトを入れるかとか、あと、組織性についての構成要件が明確であるか、その点に絞って審議をしないとこの審議が冗漫になってしまうのではないか

■早川忠孝議員

●【なぜ審議内容を反映した案を出さなかったのか】

 私は、法務大臣にお伺いしたいのでありますけれども、解散後の新たな、今回のいわゆる条約刑法と言われるものの提案に当たって、通常国会における委員会での審議内容等を反映した形で、必要な修正、検討があれば、ぜひともそれを反映したものにしていただきたかった。それをなぜされなかったんだろうか。

■ 漆原良夫議員

●【団体の共同の目的が途中で変わる場合は】

 当初は正当な団体として会社なら会社が発足しましたが、途中から組織的犯罪集団と認定されるような場合があると思います。
 例えば、初めは仲間五、六人で建築会社を始めました。ところが、その後不況になって、とてもやっていけない、仕事がなくなった。そこで、みんなで相談してリフォーム詐欺をやろうじゃないか、こうやることにして、おのおのの任務の分担や具体的実行についての共謀をした。このような場合は共謀罪は成立する可能性があると思いますが、いかがでしょうか。

(○答弁 団体の共同の目的とは、必ずしも、設立登記や定款に記載されている目的や、団体が形成された当初の目的のみをいうものではなく、当該共謀が行われた時点における個別具体的な団体の活動実態に照らして判断されることになります。)

●【恣意的な捜査が行われない保証はあるか】 
 最終的には共謀罪が成立しなくても、捜査機関が捜査権を濫用して恣意的な捜査を行うようなことがあれば、市民団体、会社、労働組合といった団体は大きな打撃を受けることになりますが、そのような事態にならないという保証はあるんでしょうか。

●【団体の変質の有無を判断するために団体全部が捜査対象となるのでは】
 正当な団体が途中から組織的犯罪集団に変質する場合があるとすれば、そうだとすれば、仮に、たまたまその団体の幹部がその団体の意思決定として特定の犯罪を実行することを共謀した場合であっても、その団体の変質の有無を捜査するために、判断するために、その会社、団体は全部捜査の対象となると思われますが、いかがでしょうか。

●【本当に制限的に、厳密に考えないと大変なことに】
 問題は、まともな会社、まともな団体が変質する場合があり得る。変質すれば適用対象になるということだから、そこのところを本当に制限的に、厳密に考えていかないと、これは大変なことになるんだという感じを持っております。

●【国際性の要件を入れることに何の不都合もない】
 もう一点、実際上の問題としてはこう答えられているんですね。「例えば暴力団による国内での組織的な殺傷事犯の共謀が行われた場合について、そのようなものは国際性の要件を満たさないことから、これを共謀罪として処罰できなくなってしまいますが、そのようなことになるのは不都合であると考えられます。」というふうに先回答弁されておりますが、私は何もこれは不都合にならぬと思っております。
 先回述べたとおり、共謀罪は現行刑法では例外的類型に属するものであります。そのような例外的犯罪類型である共謀行為をすべて処罰の対象にしたいんだという立場からすれば不都合と思うかもしれませんが、犯罪の成立には客観的な実行行為が必要であり、それが原則だというふうに考える私の立場からすれば何の不都合もないと思っておるんですが、補充的にお答えになりますか。